Laugh Love Life Magazine

No.165 (2018.12.8)
MATSの高純度 高密度 高濃度ご縁物語

CHEF`Sのアンテナバリサン男ことMATSのちょっとマニアックな熱血ストーリー

第58回
「陽光」


こんにちは、MATSです。

僕は絵を描いていると、時々自分の力だけではない何かに背中を押されて描いているような感覚になるときがあります。
それを今までで一番強く感じたのがこの絵を描いたときでした。

この絵を描いたのはもう10年前のこと。
学生の頃一番お世話になった恩師の声かけでグループ展のお誘いがあった。
先生に出会ってなかったら今の自分はないだろうと思ったので二つ返事でお受けした。

しかし、勢いで受けてしまったもののよく考えたら仕事でばかり絵を描いてきたから手元に作品なんてまったく無い。
ずっと誰かのためにばかり描いてきたから、自分のためにとなるといざ描こうとしても何が描きたいかさっぱり出てこない。
なかなか題材も見つからないままどんどん時間は無くなり焦る一方。

そんなある日、家のパソコンを整理していたらある写真が出てきた。
岩手に住む祖父と祖母の写真。
初めて自分の足で会いに行ったときのものだった。

その時は何も考えずに撮っただけだったけど、数ヶ月経ってこの写真を改めて見た時、妙に突き動かされるものを感じた。
題材とかそんなことを考えることもなく気づいたら手を動かしてた。しかもかなり大きいキャンバスに。
終わるのだろうか。無謀なチャレンジだったけど、昼も夜もなく無我夢中で描いてた。

それはそれは描いてるときは夢中で、一つの舞台を楽しんでいるよう。
自分が天才だと思える瞬間もあれば、絶望のどん底のような気持ちになったり。
休んでる間もずっと絵を見てる。そんな状況。
あんなに何日ものあいだ一つの作品に集中したことは後にも先にも思い当たらない。

そして、そんな濃い数日間もリミットが迫ってきた。その時はもう搬入日の朝だった。
なんとか間に合った。まだ少しだけ時間があるから少しだけ休もうと思ったとき、ネームプレートを用意しなければいけいないことを思い出した。
今まで絵に題名を付けたことなんてなかったからめちゃくちゃ迷った。
疲れも限界を超えてて意識も朦朧としてる。

そんな状態の中、朝日の影響もあってか妙に日光の暖かさを感じた。
この絵の中に照明の光と外からの自然光が交わる部分がある。ここが一番難しかったけど一番描いてて面白い部分でもあった。
それは、物で溢れてる今の自分の生活と、時間の流れも物の量も違う岩手の田舎町のギャップと重なった。
ばあちゃんちの近くで大きな地震があって電話したときも、凄く心配した僕をよそにばあちゃんは「80年以上も生きてりゃいろんなことがある」と笑ってた。
ばあちゃんはどんな大変なときでもいつも冗談を言いながら笑ってみんなを安心させてくれた。そんな存在だった。
陽の光は栄養がいっぱい詰まってて暖かい。ばあちゃんの笑顔はいつもそんな感じだった。
だからこの絵に「陽光」という題名をつけた。

母もこの展示会に来てくれ、母はこの絵を見て、「涙が溢れて前に立っていられなかった」と言ってた。 いろんな思いがあったんだろうな。

そしてその一ヶ月後、偶然従兄弟の結婚式があって十数年ぶりに岩手に親戚一同が集まった。
その時にこの絵を見せたら、しゃべれなくなっていたじいちゃんは目を輝かせて何かを言ってた。僕が絵が上手なことをずっと誇りに思っていてくれたから。
ばあちゃんは褒めてくれるでもなく、「みったくねえ顔を描いて」とまた冗談ぽく笑ってた。

「とにかくまず仏さんに手を合わせて来い」と言われて、子供の頃から意味もわからず最初に寄ってたいつもの仏壇に手を合わせた。
そこにはウチの母親とうり二つの女性の写真が飾られていて、昔からそれを見て「お母さんとおんなじ顔」ってみんなで笑ってた。
その写真も昔と変わらず笑ってる。
手を合わせて顔を上げると・・・
なんとその仏壇の中に「陽光」って文字が書かれた札がある。
何あれ?ってばあちゃんに聞いたら、「あのおばあさんの今の名前だよ」って。あの写真を指して言ってた。
「この絵の題名も同じだよ」って言ったら、
ばあちゃんは驚くでもなく「おもしれえ事もあるもんだ」って、またいつものように笑ってた。

そして、その翌年にじいちゃん、さらに翌年にばあちゃんは天国に行きました。
気付けば、絵を描き始めて10年目であの絵を描いて、20年目に今こうしてまた思い出してる。
不思議なこともあるもんだ。

MATS



入会・年会費無料!
CLUB CHEF`S GOLDの入会はこちらから!


Instagram (#chefsillust)

公式Facebook

*SNSなどでご予約、スケジュール等のお問い合わせは受け付けておりません。

似顔絵イラストレーターチームCHEF`S

配信元・お問い合わせ
株式会社マスター・ジーベック
CLUB CHEF`S事務局
TEL:03-3881-3108
club@master-xebec.com
↑ Page Top