CHEF`Sのアンテナバリサン男ことMATSのちょっとマニアックな熱血ストーリー
第45回
「トンネル時代」
あと少しでこの世界に入ってちょうど20年。
今回はその頃のお話を。
ちょうど20年ほど前の今頃は、専門学校二年生で就活をしていた。
ある会社を訪ねたことがこの世界の入り口だった。それが横浜の壁画制作会社。
デザインルームからアトリエに移動すると、そこはアトリエというより車が4台くらい入りそうなガレージという感じだった。
シャッターも締め切っていて昼なのか夜なのかわからないような空間だった。
しかし一つのスイッチで完全に心を鷲掴みにされた。
一瞬真っ暗に。次の瞬間ブラックライトという紫外線ライトを点灯し、壁も床も天井も境がなくなって一瞬にして宇宙空間に立ってるようになった。
特に何かの絵が飾られてるわけでもなく、今まで描かれてきたものの残骸がそこらじゅうに飛び散っていただけだったけど、それが全部光って浮き出ていてめちゃくちゃアートしていてかっこよかった。
絶対ここで働きたい!それから千葉のド田舎から横浜まで何度も訪ねた。
結局その情熱が伝わったのか、その会社に採用になり春から入社することになった。
これが横浜に来るきっかけにもなった。
最初の約2年はアシスタント。
絵が上手いというのが自慢で19年やってきたのに、社会に出ると何にも出来ない赤ちゃんに戻る。
美容師さんなんかもそうだけど、職人の世界というのは一人前になるのにそれなりの時間がかかる。
お金をいただいているのだから当然だ。
しかし、予想していたとはいえ思っていたほど甘くなかった。
仕事をするということは絵だけ描ければ良いというものではなかった。
技術も勉強しつつ周りのいろんなことを覚えなくちゃいけない。
そのためのアシスタント。
掃除や運転に始まり、現場の準備、設営・撤収・・・汚れたり重いもの持つのは当たり前。
少しずつ絵に関わることをやらせてもらえるようになり、師匠が描く大作を先読みして色や画材の準備をしたり。
慣れてくると絵の具の硬さや道具の塩梅なども感じ取って準備できるようになる。
アシスタントの仕事っぷりでその作品の効率もぜんぜん変わるし、極端なことを言うと作品の出来にまで響く。
しかも僕らがやっていた世界は特殊で、暗闇の中でその裏方の仕事をしなきゃなんない。
だから目だけじゃなくて耳もだいぶ鍛えられた。
エアブラシというガンタイプの道具を使ってほとんど描くんだけど、音で塗り具合も判別できるようになる。
しかもデカイから絵を描くという能力だけじゃなく綺麗に塗ることも出来なければいけない。
半分絵描きで半分塗装屋。
最初の一年で任された大役は、師匠たちが描いた絵の「クリヤーコーティング」という作業。
これは暗闇だというだけでなく吹き付けているもの自体が透明の液体だから、どれだけ塗れているのかわからない。
吹きすぎると何日もかけて描いた絵を溶かしてしまうし、薄く吹き付けたのではコーティングにならないので保証問題になる。
だから先ほども書いたとおり、耳が重要になる。
目で見えないから音だけを頼りに吹きつけなければならない。
それはもう、毎回胃に穴が開きそうなプレッシャーの中でやってましたよ(笑)
実際に溶かしちゃったり、絵を消してしまったこともあったし(笑)
今だから笑えるけど当時は地獄です(笑)
とにかく毎回作品自体もデカくて、チームで一体になって向かっていかないとやっつけられないモンスターみたいだったから、失敗のスケールもいちいちデカイ(笑)
シンナーを大量にこぼしたり、ブラックライトを割ったり、車で事故ったり・・・(笑)
それはもう、怒鳴られ、ど突かれ、一通りの失敗をして体に刷り込まれていったものです。
ほんと毎日が辛くてね。まさにトンネル状態。
でもはっきり覚えているのが、その時本当に辛くて辞めたいと思ったことが一度だけあったんだけど、「ここで辞めたら何をやっても続かないだろうな」って思って踏みとどまった。
今思えばこれが、社会人になって初めて自分でした決断だったかな。。
人間て不思議なもので、時間と共にだんだん慣れてくるんですね。
技術と共にそのスケール感やスピード感みたいなものに感覚が追いついてくる。
入って一年目くらいは本当に辛くて、
当初思い描いていた世界とのギャップもあって真っ暗闇みたいな毎日だったけど、がむしゃらに毎日続けていることで一筋の光のようなものが見えてくるときがあった。
そこからはその光に向かって一直線て感じだったかな。
いつからか大きな絵(仕事)も任せてもらえるようになり、デザインや打合せ、見積もり制作までやらせてもらえるようになった。
そりゃあもういろんな所で描きました。
それからフリーになったり、ひょんなことから似顔絵をはじめたり。
それはまた別の話ってことで。
まあ、いろいろあったけど、あの時トンネルから逃げ出すように辞めていたら今の自分は絶対なかったと思う。
もちろん20年もやっていたら大変なことも今だにたくさんあるけど、絵を辞めたいと思ったことはあの時以来無かったかな。自分には絵しか無いから(苦笑)
雨降って地固まる、じゃないけど何でも下積みって大事なんだよね。
今の若者はそういう感覚わかるかな~(笑)
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